日本医療保育学会
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理事長からのご挨拶 GREETING

一般社団法人日本医療保育学会公式ホームページをご覧くださり、ありがとうございます。理事長としてごあいさつ申し上げます。
 
◯医療を要するこどもに寄り添い続け、『こどもまんなか社会』実現に貢献する
 2023年4月『こども基本法』が施行され、同年12月22日『こども大綱』(以下、大綱)が策定されました。大綱は『こどもまんなか社会』を「全てのこども・若者が、日本国憲法、こども基本法及びこどもの権利条約の精神にのっとり、生涯にわたる人格形成の基礎を築き、自立した個人としてひとしく健やかに成長することができ、心身の状況、置かれている環境等にかかわらず、ひとしくその権利の擁護が図られ、身体的・精神的・社会的に将来にわたって幸せな状態(ウェルビーイング)で生活を送ることができる社会」と説明し、施策の柱としています。
 日本医療保育学会は、医療保育を「医療を要する子どもとその家族を対象として、子どもを医療の主体として捉え、専門的な保育を通して、本人と家族のQOLの向上を目指すことを目的とする」営みと捉え、医療保育の質向上に向けた研究の推進と、「医療保育専門士®」資格認定制度をはじめとする研修の充実などを図って参りました。創設から四半世紀を迎えますが、そのあゆみは『こどもまんなか社会』につながる道のひとつを切り拓いてきたといえるでしょう。
 
◯私たちが、当初より大切にしていることがあります。
・ 医療保育を担う保育士たちは医療を要するこどもと家族に寄り添い、一人ひとりが自分らしくあることができるよう保育の力を信じ、創意工夫を行うこと
・ 保育の力を活かすために医師、看護師をはじめとする多職種と協働し、チームとして、こどものQOL向上にむけて取り組むこと
・ 保育士たち、保育の力を大切に思う医療者たちが、現場での悩みや苦労、やりがいを共有し、つながり、励まし合うこと
 多様な専門性を有する専門職者が、それぞれの専門性を尊重し、智恵を出し合って努力する姿が、こどもを励まし、自らの自立モデルの参考となるなら幸いなことです。
 
◯新しいニーズへの対応
 医療を要するこどもは多様な情況におかれています。従来、医療保育が対象としてきた病院・診療所(入院、外来通院、健診など)、病児保育室、障がい児者施設の利用者だけでなく、入院の短期化、入退院の繰り返し、医療的ケア児の在宅ケアと保育所等への受け入れが進むなど、在宅を視野に入れた医療保育のニーズが高まっています。「医療保育専門士」資格認定研修希望者にも、自宅を生活の拠点として児童発達支援センター等に通うこどもを担当する方が増えてきました。医療を要するこどもの保育所等でのインクルーシブ保育を担当する保育士の専門性向上も急務です。これまでの「医療保育専門士」資格認定研修では、これら在宅の医療を要するこどもを担当する保育士が担当を継続的できる場合、受け入れてきました。研修課程が2年間で設計され、資格取得後に保育の質、こどもと家族のQOLの向上に努め、医療保育への社会的認知度を高めていってほしいという思いが、原点にあるためです。
 そこで、在宅の医療を要するこどもとかかわる保育士の中にある「継続的にかかわるとまではいえないが、担当する医療を要するこどもの保育の質を高めたい」、「職場に医療を要するこどもがいるので医療保育について理解を深めたい」といったニーズをもつ保育士に門戸を開く「医療保育基礎課程」制度を新たに設け、「医療保育基礎課程修了証」を授与することとしました。
医療保育の場で働き続けることをめざす場合も「医療保育基礎課程修了証」を取得後に「医療保育専門士」資格認定研修課程に進む、というステップを踏んでいくことになります。
 
◯ともにあゆむ保育実践の質を高める実践研究から多様で学際的な共同研究の推進へ
 こどもと家族に寄り添い、ともに歩むことで、こども、家族に教えられてきたことがたくさんあります。また、医療者の理解と助言、協力を得ることで、保育の可能性は広がります。こうして得てきた保育の知見は、新たに出会ったこども、家族、医療者にとって、役立つものがたくさんあります。こうして、こども、家族、医療者と保育士がともに学び、支え合い、あゆんでいるという情況ができあがっていきます。
 医療保育の実践研究は、このような情況を築く保育士のあゆみの、ある局面に目を向け、そこから抽出されてきた保育の知見を一般化して共有する営みといえます。これらは「医療保育専門士」の活躍とともに少しずつ深められてきました。自らの医療保育実践や業務に関する保育士の語りの分析、保育実践に関する保育士と看護師の語りの比較、わが子の保育に関する保護者の語りの分析、個別の実践プロセス(エピソード記録など)を対象とした分析など、さまざまな業績が発表されています。「その時々のこどもの視点(どう感じ、考え、行動したか)」に迫る努力が重ねられていることに励まされます。その作業は奥が深く、ずいぶん後になって「こうだったのかも」と気づきを得ることもあります。「こどもの姿から出発し、こどもの姿に立ち返って考える」ことを、これからも大切にしていきましょう。
 ところで、医療保育の社会的、経済的基盤は少しずつ改善して来ているとはいえ十分とはいえません。医療保育の制度的基盤の確立に向けて多様な立場からの議論が求められます。行政への提言や意見交換も必要です。そのためにも、医療保育の実践研究の成果を深め、広げていく努力を継続していきたいと思います。
 また、医療保育学会の成立につながる多くの医療者と保育士たちの、過去の努力にも目を向けなければなりません。わが国の医療保育のあゆみを資料として残し、分析、整理していく作業は粘り強さが求められるものとなりますが、忘れてはならない課題です。
 以上のように、医療保育の研究課題は、実践的なものから基礎的なものまで多様で、一つひとつが魅力的なものです。これらの研究を進めていくためには、現場で実践を通して日々検証を重ねている会員と、さまざまな学問領域の研究者である会員との共同研究の輪を広げていくことが欠かせません。当学会として、このような輪がさらに拡がるようにしていきたいと考えております。
 
◯医療保育を担う保育士のキャリアラダーに基づくキャリアアップ支援の推進
 キャリアラダーは、ある専門職の能力を段階的、計画的に深めていくことはもちろんですが、一人ひとりが自らのキャリアを段階的に進めていく「キャリア発達支援」のシステムでもあります。現在検討中の資格認定制度改訂は、医療保育を担う保育士のキャリアラダーに基づくものです。そこには、保育士のキャリア発達支援に医療保育の側から貢献したいという思いがあります。
 キャリア発達は知識やスキルを向上させる「スキルアップ」だけに留まりません。保育所保育士として医療的ケア児にかかわりながら「医療保育基礎課程」を学び、修了証を得たとします。その後は、直接医療的ケア児を担当しなくても、学びを活かして医療を要するさまざまなこどもの保育のサポートにあたる、病院に転職して「医療保育専門士」資格を取得するなど、いろいろな道(キャリアパス)が拓かれていくでしょう。
 場合によって「医療保育専門士」資格を取得後、医療保育の現場から離れることもあります。医療保育の現場から離れても、医療保育専門士コミュニティがあることで、みんなに貢献できる可能性は残されています。新しい制度では、保育士としてのさまざまなあゆみを想定しつつ、必要な学びを提供することに貢献できることを大切にしたいと考えます。
 「医療保育」や「医療保育専門士」の存在自体が、あまり知られておりません。非正規職員という身分で務めざるを得ない場合もあります。まずは、こどもと家族のQOLを高める上で医療保育専門士資格をもつことが果たしてきた役割について、多くの方々に知っていただき、社会的地位を確立していくことも欠かせない学会の役割です。
新しい制度で学んだ保育士たちが、それぞれの場で専門性を活かして働くことを支えていくことは、社会的地位確立の最初の一歩と言えます。

医療保育学会は小さい会ですが、志は高く持ち続けてきました。会員のみなさまにおかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない意見をお寄せください。そして、少しずつ、できるところで構いませんので、研修会等の企画、運営等についてお手伝いいただければ幸いです。
 こうしてこそ学会としての充実した取り組みが継続していき、新たな道が切り拓かれていくものと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 
2024年9月1日

一般社団法人日本医療保育学会
理事長 谷川弘治